もうすぐ桜が咲く季節の匂いがして、春は近い。

3月XX日

4月からの異動先が決まった。

今の部署は、採用されていちばん最初に着任した部署。社会人になってもう2年半経つんだと思った。わたしは同級生から半年遅れた10月採用だから正確には10月で1年間が切り替わるけど、もう4年目になるんだと思うと、高速道路の車窓から景色を眺めるように過ぎて行った日々だった。いつの間にか何年目というのも数えなくなるんだろう。今の部署は絶対定時で帰れるし、上司にも先輩にも同期にも恵まれて、職場環境で辛いと思うことは何もなかった。

でも、毎日決められたことをこなして給料を貰って何事もなく過ぎ去って行く日々に、こうやって歳をとっていくんだなってちょっと悔しくなる。

次の異動先は、残業も多そうで、今よりも精神的にも肉体的にもかなりハードになりそうだ。

潰れるかもしれないし、意外と大丈夫かもしれないし、自分がどうやって順応していくのか分からないけど、新しい環境に行くことはすごく楽しみだ。今年は激動の1年になるだろうと予想している。

 

3月XX日

コロナの世の中になって、楽しみな予定もキャンセルになる未来が見えていたから計画も立てなくなったし、会いたい人にも会いたいと気軽に言えなくなった。

周りの友達がどんどん結婚していって、あぁ、一緒に生きていく人を決めたんだなと思って祝福の気持ちと共に少し羨ましくなった。

一緒に生きていくということは、「他人」という線引きの内側にちゃんと入ることができて、そして相手を入れてあげることができるということだ。

わたしは小さい頃は全然友達が作れなかったのに、高校、大学、そして社会人になるにつれ社交性が高くなっていったのは、「他人」という線引きがちゃんと引けるようになったからだと思う。踏み込ませるところ、相手に踏み込んでいいところがきちんと明確だから、人のことが怖くなくなった。

ひとりでいたいわけではないのだったら、その線引きを外す方法も心得ておけと言われるけれど、

踏み込ませた先のわたしを見せるのが怖い。

心を許した人に傷つけられるのが怖い。

だから、本当は踏み込んでみたいと思う人にも、少し手を広げた距離感を持って接してしまう。

本当は、多少傷ついたくらいじゃ何ともないくらいわたしは強いはずなのに、もったいないよね。

 

3月XX日

社会人になって、ちゃんと自分のことが理解できて、感情が湧きにくくなった。

「諦める」ということを要領よくできるようになって、感情が溢れ出て理性を失うことがないように、蛇口を開け閉めして管理できるようになった。

わーっと泣きたい夜も、次の日に目が腫れる心配をするとすぐに涙が引っ込む。

感情的に怒ることはほとんど無い。我慢ならないことがあっても、ただひたすらに悲しくて、怒るほどの衝動が湧き上がらないからだ。

文章を書き始めたときは、表現したい感情がたくさん心に溢れていて、「表現する」ということに心から興味があった。でも、音楽もダンスも絵も表現できるまでの技術を持っていないから、文章しかない。

そうやって文章を書き始めて、わたしは「文章を書く」ということを趣味のように思っていたけど、わたしの文章は感情ありきだった。

感情が動かないから、表現したいことも言葉も何も出てこない。

だから、よく「感情を動かすために」ひとりで映画を観に行くようになった。映画に浸りながら、我慢せずに涙を流して、余韻や考察に浸りながら誰と話すでもなくひとりで帰るのが、サウナの後みたいに気持ちいい。

それでも、わたしは人よりも少し強い感受性を持っていて、世の中の色んなエネルギーを感じながら生活をしている。

心のどこかで言葉に出来ない感情をもっている気がするし、わたしはまだ、わたしという人間を表現し尽くせていない今の自分を、ゆで卵の薄皮がついた状態みたいに思うことがある。

文章にするのか他の手段を試すのか分からないけど、わたしの今本当にしたいことを問われたら、やっぱり変わらず「表現する」ということをしたくてたまらないんだと気付いた。

 

3月4日

友人が久々に更新した日記を読んで、気力をもらった。最近SNSからぱったりといなくなった友人のことを少し心配していたし、日記を読んでも心配したけど、自分はこうしたいという野心があって何かに打ち込むことができる集中力を持っている友人を尊敬すると共に羨ましく思った。

わたしにも叶えられていない野望がたくさんある。職場の試験に合格してやりたい仕事をしたいし、願わくば、海外に留学もしてみたい。今、趣味としてやっている二胡中国茶を続けて、何らかの形にしたい。結婚はしたいけど「自分の人生」というものを強く持っているがゆえに、各々の人生を並走できる人と結婚したい。これからもっとやってみたいことがたくさん出てくるんだろう。叶うか分からないけど、言葉にしなければ叶うことはない。やってみたいことを語りながらお酒を飲みたい。