なんでもないこと

今日は、2時間分会社をサボって早退してきた。何か心が無理だった。
何が無理かと聞かれたら、抽象的な表現しか出来ないほど、具体的な無理な出来事が出てこない。小さい子のよく分からないグズ期と一緒だと思う。
心が無理なのと、今の仕事がめちゃくちゃ暇で、早退しても何ら構わないという、早退するしかない環境が整っていた。

わたしはとにかく静かな純喫茶みたいなところで、ひっそりと本でも読んで心を落ち着かせたかった。それなのに、今、駅からちょっと歩いたところの狭いミスドにいる。
静かな純喫茶は駅から遠いし、そこに行くまでに歩く元気が無かった。
せっかくならいつも食べないドーナツでも食べようと思ったのに、後ろの人に急かされるように咄嗟にトレーに取ったのは、いつものエンゼルクリームだった。お飲み物はどうしますか?って聞かれて、迷ったときのいつもの癖でアイスカフェラテにしたけど、店内は空調が効きすぎていて、アイスを選んだ自分を飲み始め3秒で恨んだ。
ミスド、まじでJKが多すぎる。
何があったのか知らないけど、泣いてるひとりの背中をさすってる集団の斜め前に、コイバナでめちゃくちゃ盛り上がってる集団がいる。
このふたつは別の集団で、どちらも同じように笑うときは勢いつけて手を叩く。スタンディングオベーションか。
今更、JKのノリは無理だなと思った。でもよく考えたら、自分がJKだったときから無理だった。


この席からは、顔を上げるだけで店のガラス張りの自動ドアの向こうがよく見える。
確か今日の天気予報は夕方から雨だったのに、傘を持ってない。いつ降るのかな〜って外行く人が傘をさし始めていないか2分に1回は見てしまう。今にも雨が降りそうだから早く店を出れば良いのに、せっかく入ったからすぐには出られないし、アイスカフェラテはMサイズ。
実際雨が降ったらやばいのに、泣き出しそうな空の色ってこういうことかって、そういう悠長なことばかり浮かぶ。
今日は濡れたい気分だと思っても、いざ濡れたら濡れたでもっと不機嫌になる。


本当に何がしたいんだろうと思う。
何となくもう無理だったから有給を2時間分消費したのに、早く家に帰るわけでもなく騒がしいミスドで燻ってる。


本当は今日、好きなアーティストのライブだった。倍率高いのに当選してて、行ったら今の憂鬱な気分が一気に晴れる予定だった。
行こかな、行ってもいいかなって迷い続けて、
でも、こんなご時世で、わたしの行きたい気持ちだけで、人が多い場所に行ける気がしなかった。家族に行かないでって言われたら、行けなかった。
後ろめたいことをする勇気がとことんない。
ずっと楽しみだった予定がどんどんスケジュール帳から消えていくし、こんな時に話したい人にご飯行こって誘えない。でも、みんなそんな気持ちを抱えて日常をやり過ごしてるのに、わたしだけが文句を口に出せない。
仕方ないことを仕方ないとちゃんと諦めがつくのが大人だと思った。


ミスドは結局、周りの楽しそうな騒音に負けて、すぐに出てきてしまった。
大型商業施設をブラブラ散歩することにしたけど、仕事しか予定がないのに新しく服を買う気分になれないし、雑貨もまったく惹かれない。
せめて心を救うために辿り着く最終地点はいつも本屋さんだった。
最近は、詩に惹かれる。
現代は、エッセイをぎゅぎゅっと濃縮した詩を書く詩人が多い。詩を拡大トリミングして書かれたエッセイは、シンプルな構造だからこそ言葉選びの上手さが際立つ。
パラパラと立ち読みしたら、やっと少し心がかき乱された感じがしたから、今日わたしが、わたしに買い与えるべきものはこれだと思った。
工藤玲音と最果タヒの著書を1冊ずつ買った。

 


そういえば最近、仕事のデスクに、『シンプルに考える』とでかでかと書いた付箋を貼り付けている。
わたしの思考は無駄が多いからだ。
文章でもなんでも「明瞭簡潔」が好かれるというのに、ゴテゴテに飾り付けされたクリスマスツリーみたいに考えること、言いたいことがどんどん膨らんでいく。
「クリスマスツリーは、クリスマスの為に飾り付けをした木」これでいいんだ。
「クリスマスツリー(あ、クリスマスツリーってどこが発祥なんだろう)は、クリスマスの為に(そういえば外国ではプレゼントをツリーの下に置くのになんで日本は枕元なんだろ)飾り付け(てか電飾とか飾りが重すぎて枝折れないのかな)をした木(モミの木だっけ?)」じゃないんだよ。
その点、上手な人が書く詩って、言いたいことがパン!パン!パン!って出てきて最後にジュワッていう余韻を残す。
これがシンプルアンドエモなのか?


でも、シンプルにこだわるゆえに、最近ショートヘアですらちょっと伸びると鬱陶しくなってどんどんショートにしてるんだけど、気分転換に振りかけたヘアミストが、自分には全然香ってこないことに気がついた。
お気に入りのホワイトティーのヘアミスト。
髪が長かった頃、結んでいた髪の毛を解いた時に、一日中髪の毛の内側に閉じ込めていた残り香が、ふわっと香ってくる瞬間が好きだったのに。